Sketch Notes03
旅の雑記帳
島根県隠岐島
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たとえばこの一文は、島根県隠岐郡西ノ島の木賃宿の一室で書いている。 十月十五日、午前四時五十三分。 くしゃみ一つで目が覚めたのは、夜半三時を回った頃のことだ。それからまんじりともせず、右に左、上へ下へと寝返りを繰り返し、気がつけば障子の向こうの空が白み始めている。 天井からぶら下がる紐を引っ張って豆電球をつける。よっこらしょと起き上がり、煎餅布団の上に胡座をかく。浴衣の上に褞袍を羽織り、首にはタオルを巻いている。 あと一時間もしたら、宿の主が起き出して朝飯を作り始めるだろう。それより先に、港を出る船が汽笛を鳴らすだろうか。 柱の古ぼけた温度計は摂氏七度を示している。ぶるるっと身震いをし、褞袍の襟をかき合わせ、立ち上がって巨大なエアコンのスイッチを入れる。ひやっとした風が勢いよく吐き出されてきて、よく見たら冷房機能しかついていないのだった。 * * * 隠岐に来るのはちょうど一年ぶりのことだ。 * * * しんしんと夜気が寝具の隙間から忍び込む。 (2004年11月11日発行『TALEMARKETvol.19』より)
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