after glow
編集後記(28)




 今から15年前のちょうどこの時期、みなさんは、どこで何をしていましたか?
 僕は新潟県の田舎町に住む高校2年生で、毎日バスケットボールの練習に明け暮れていました。新聞記者になりたくて、当時は本多勝一さんや筑紫哲也さんに憧れていて、愛読書は『朝日ジャーナル』と『貧困なる精神』----まあ、今にして思えばヘンな子供でした。
 秋山豊寛さんが宇宙に飛び立ったのは、まさにちょうどその頃(1990年12月2日〜11日)。僕は炬燵に入って蜜柑を食べながら、テレビでそれをずっと観ていました。ソユーズが打ち上げられた瞬間、筑紫さんが中継でうっすら涙ぐんでいて、僕も何だかわからないけれどテレビの前で泣いていて、家族に変な顔をされたのを憶えています。
 あのとき「宇宙」は僕にとって、かつてなく身近な空間でした。
 大学を卒業して雑誌記者になり、様々な人と出会い啓発される中にあっても、あのとき感じた宇宙や地球のリアリティーというものが、僕の思考形成の根源的な部分に大きく作用していることに、しばしば気づかされました。環境問題に取り組むようになったのも、宇宙からの秋山さんのレポートに触発されてのことでした。
 今回、いわば僕にとって「恩師」ともいえる秋山豊寛さんに、テルマ独占インタビューをさせていただきました。スケジュールの関係で、かなりイレギュラーな形での取材となったのですが、秋山さんは嫌な顔ひとつなさらず(ほとんど全てお見通しで……)、ご多忙の合間を縫って懇切丁寧な対応をしてくださいました。これがメジャーなメディアならいざ知らず、テルマというマイナーミニコミ誌のために。内心ひどく恐縮しつつ、「どうしてなんだろう?」と不思議に感じました。でも、その理由はインタビューの中にある秋山さんの最後の言葉に、収斂されているような気がします。
 ちなみに秋山さんのインタビューは、引き続き次号(第2部・大地編)もお届けしますので、どうぞお楽しみに。

 さて、2005年も間もなく終わります。みなさんにとって、今年はどんな歳でしたか? 楽しいことばかりじゃなく、辛いことや悲しいこと、嫌なこともたくさんあったと思います。そんなみなさんの日々の片隅に、この本が存在しえて、ほんの少し心が和んだり、ちょっぴりくすっとしたり、あるいは何かを考える些細なきっかけになったりすることができたなら、これほど幸福なことはありません。
 毎月印刷を終えて製本し、全国各地に向けてテルマを送り出す時、一体どこのどんな郵便ポストにこの本は届くのだろうと、いつも想像します。手に取った人が封を開けて中を見る時、一体どんな顔をしているだろうと、いつも考えます。
 その顔に、ちょっとでも笑みが浮かんでいることを、心から願ってやみません。
 来年も、どうぞよろしくお願いいたします。

(2005年12月20日発行『TALEMARKET vol.28』より)




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