after glow
編集後記(24)




 デザイナーの前田幸作さんから今月の表紙が届いた時、不覚にも涙が零れそうになりました。2003年1月の創刊号から、先月号に至る1冊1冊のカバーを見つめていると、その時々の自分がリアルに甦ります。
 2年半という時を経て、『TALEMARKET』ようやく2シーズンを折り返すことができました。ちょうど昨年の今頃から今年の春先にかけて、諸般の事情から隔月刊で発行せざるをえない状況が続いたため、本来なら昨年末にこの号をお送りするところを、みなさんには大変ご迷惑をおかけしました。心よりお詫びいたします。
 さて、今月号ですが、実は発行直前になって、ほぼ全頁を差し替えました。差し替えて、「誌上ライブ中継」を入れました。「えーナニそれ!?」という方も、少なからずいらっしゃることと思います。うまく説明できないのですが、なんていうか、これが今の僕の有り様というか、現在進行形の僕の断面というか、つまりはライブな自分であるような気がしたから。写真もエッセイも雑記帳も小説も、相変わらず書き溜めています。そういうネタはたくさんあって、それを今回も使おうと当初は考えていたのですが、土壇場になって「違う!」と----。今まさにこの瞬間の僕のベクトルは、幾分違うように思えたのです。
 この1ヶ月というもの、ギターケースを抱えてあちこちを歩き回ってきました。新人演歌歌手のドサ回りみたいに。ワイパーもきかない大雨の中、2日間のべ800キロ計11時間にわたって、休みなしに車を走らせ、辿り着いた安ホテルの一室で、肩と背中が痛くて半べそをかきながら、「俺一体なにやってんだ?」と思いながら、それでも会場に向かい、下手な唄を歌って愚にもつかないお喋りをする----そんなことをずっとしていました。a
 もちろんそれが「仕事」ではないから、普段はクライアントをまわり、膝に額がつくくらい、一日が終わると腰が痛くなるくらい、人々に頭を下げて歩いています。ようやく家に帰れば、ギターの練習に追われ、MCのシナリオを書き、最近は講義の依頼なんかもあってそのレジュメを作ったり、写真の整理をしたり、デザインの勉強をしたり、ものにならない原稿を書いたり、そしてテルマを作ったり……。もちろん本も読みたいし映画だって観たいし、大好きな音楽を聴いて、いろんな人にも会いたい。
 この身があと3つくらいあったらなぁ……と真剣に願う忙殺の日々の中、ふと我に返った時、自分が何者なのかわからなくなってしまうことが、ままありました。ヌカ喜びしたり、驕ったり、とてつもなく消耗したり、ひどく打ちのめされたり、そんな中にあって、見失いがちな自分自身を取り戻してくれたのは、いつもこの本でした。 
 テルマがあるから、僕は僕でい続けることができました。
 だからこの本は、他でもない自分自身のために、これからも続けていきます。定期購読の更新を迎えて、恐らく読者の方は極端に減ると思いますが、まぁ、1人でも----というとやや大げさですけれど、10人の方が残ってくれたなら、変わらずに続けていくつもりです。
 TALEMARKET--Season3--、何卒よろしくお願いいたします。

(2005年7月19日発行『TALEMARKET vol.』より)




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