after glow
編集後記03








「どうして農業の雑誌をやっているの?」と、よく聞かれます。どうもイメージにそぐわないらしいのです。そんな風に聞く人達にとって、食とか農ってどんなイメージなのでしょう。ダサくて(死語?)うんこ臭くて、田舎臭い……そんなところでしょうか。
大体、僕はこんな風に答えます。
「農業って実は格好よくて美しいものだと思うし、最先端を行く(あるいは行っていなくちゃいけない)世界だと思う」
これはお世辞でもおためごかしでもなく、心底そう感じています。
「田舎とか農村とか、大好きなんですね」
そんな風にも言われたことがあります。
いいえ、と答えました。
これは一種の独白ですが、僕は幼少期、農村社会の閉鎖的な部分を、毎日毎日肌に刺すように感じながら育ってきました。僕が生まれ育った新潟県の農村は、それはそれは閉鎖的なところでした。
周りはみな古くからの農家で、僕の家だけが唯一の「ヨソモノ」でした。
小学生の頃、僕は一年間だけいじめられたことがありました。昨日まで仲良くしていた友人達が、まさに手の平を返すように、ある日突然、一言も口をきいてくれなくなり、一年間、僕は誰とも喋らずに過ごしました。
後で知ったことですが、その子供達の親が、僕を「村八分」にするよう仕向けていたのでした。
「ヨソモノ」だから。
余談ですがこの時の体験は、今に至るその後の僕の対人関係における距離の取り方を、決定づけました。
田舎暮らしが素晴らしいとか、農村は癒しの空間だとか、だから僕はそんな風に安直にはとてもじゃないが言えないし、思うこともできない。
農業や農村、農家というものに対して、僕の中にはとても大きなコンプレックスがありました。いや、今でもあります。
そこで最初に戻るのですが、じゃあ何故そんな仕事をしているのか----。うまく言えませんが、きっと僕は小さい頃からのコンプレックスを、今になって必死に克服しようとしている気がします。トラクターとコンバインの違いがわからなくて笑い者にされた記憶を、今になって懸命に取り返そうとしている気がします(先日、雑誌で農機具の記事を作った時は、何と言うか妙な達成感がありました)。
ああ何だ、農村ってこんなところだったんだ、農家の人達ってこんなにすごかったんだ、と、再発見する旅を続けているような気がします。
いつかはこの旅も終焉を迎えるのでしょうが、いや、これはあるいは一生かかっても終わらないのかな、今はいつまでも終わりたくない気分です。

(2003年3月1日発行「TALEMARKET vol.3」編集後記より)



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